領域代表の挨拶

 
  真核生物の細胞内には、物流ネットワーク・メンブレントラフィックが種々のオルガネラの間に張り巡らされ、絶え間なくタンパク質や脂質が輸送されています。このメンブレントラフィックは、人間社会の交通網同様、細胞や組織・個体の機能維持に不可欠の存在です。私がメンブレントラフィックの研究を始めた20数年前は、日本では研究者が少なく、既に細胞生物学の主流となっていた欧米との差が顕著でした。その後、コミュニティは徐々に育ち、大きな集団ではありませんがクオリティーの高い仕事を持続的に発信できるようになりました。それには、文科省科研費重点領域研究「蛋白質の膜透過と選別輸送の分子機構」(平成 3-6 年度,水島昭二代表)に始まり、特定領域研究「小胞輸送−細胞内メンブレントラフィックの分子機構」(平成 10-13 年度 , 中野明彦代表)から「メンブレントラフィック−分子機構から高次機能への展開」(平成 15-19 年度,大野博司代表)へと続いたグループグラントが少なからず貢献しました。

 本新学術領域研究は、これらの領域研究の流れを汲んでいます。しかしその継続に留まらず、グループグラントのメリットを活かした異分野との融合研究によりこれまでに無かったアプローチを行う、細胞内ロジスティクスという新たな概念を導入する、病態の理解に目標を絞りこむ、という3つの特色を打ち出し、新たな一歩を踏み出そうとするものです。ケミカルバイオロジーと情報科学との融合研究では、他分野への波及効果を有する新分野の開拓が期待されます。細胞内ロジスティクスという概念は、単なる言葉の言い換えではない「力」を秘めています。詳しくは別の機会に述べたいと思いますが、例えばシャペロンという語を用いることにより研究が進展したように、細胞内ロジスティクスというこれもまた新分野が生まれるのではないかと考えています。そして、この細胞内ロジスティクスの障害・破綻こそが様々な疾患の原因となります。それらの病態の理解を図り、将来の根本的治療法開発に資する知的資産の創出を目指します。

 これらの新たな試みに班員が一丸となって取り組み、新学術領域研究として成果を形にしていきたいと思います。皆様のご指導ご支援を賜れますようよろしくお願い申し上げます。

 

領域代表者 吉森 保 (大阪大学微生物病研究所)


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